大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1072号 判決 1949年7月12日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人西村一男辯護人小林直人上告趣意第二點について、

論旨は原審相被告人中垣肇は準現行犯として取り扱わるべきものではないから、同被告人に對する檢事川井英良の訊問調書は、訊問權なきものによって作成された無効の調書であるというのである

よって、記録を調べて見ると、所論逮捕手續書(記録三丁)には、昭和二三年四月一四日午前二時頃安藤巡査が所論の如く右中垣肇を本件強盗殺人の「準現行犯」と認めて引致した旨の記載があり、次いで告知書(記録五丁)には、同日、右中垣肇に對して本件殺人強盗被疑事件の現行犯人として逮捕した旨を告知したとの記載がなされており、更に同被告人に對する司法警察官並に檢事の同日附各訊問調書及び檢事の岐阜地方裁判所判事に對する刑訴應急措置法第八條第四號に基く翌一五日附強制處分(勾留)請求書(記録八二丁)が編綴されているに拘らず、同被告人に對しては逮捕状の発布されたことの形跡が少しも存しない。してみれば、右司法警察官及び檢事は現行犯人又は準現行犯人として逮捕されたものとして右中垣肇を受け取り、それぞれ訊問した結果、檢事において前記の如く強制處分の請求をしたことを認め得る。

右の如く、檢事が現行犯人又は準現行犯人として逮捕され被疑者を受け取ったときは、檢事は舊刑訴第一二九條に從い、兎も角訊問することが要求されているのであって、訊問の結果勾留の必要がないと認めたときは直ちに釋放すべく、その必要ありと認めたときは、現行犯手續の適否を考慮して刑訴應急措置法第八條第三號其の他に從って適當な措置を講ずべきものである。從って檢事が右被疑者を受け取るまでの間の逮捕その他の現行犯手續が假りに違法であったとしても、又被疑者訊問後の檢事の措置が假に違法であったとしても、檢事が舊刑訴第一二九條に從い適法になした右訊問が違法となるべき理由は少しも存しない。

本件について見るに、檢事川井英良が被告人中垣肇を訊問した顛末は前記の如くであり、舊刑訴第一二九條所定の期間内になされたものであるのみならず、他に右訊問が不適法であるとする主張はないから、假に同被告人に對する逮捕が所論の如く不法であったとしても、右檢事の訊問が所論の如く違法となり、その訊問調書が無効となる理由は少しもない。

從って、檢事川井英良に訊問權なきことを前提とする論旨は、失當であって、論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

よって舊刑訴法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例